長生きするにつれ、人生の長さよりも「生活の質」のほうが勝るものであることがハッキリしてきます。肉体的な健康が衰えるにつれ、筋肉が弱まり、記憶もおぼつかなくなり、視力や聴力も衰えます。 この原因は何でしょう? 変えることはできるでしょうか?
クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の向上は、誰もが望むものです。そして、それは加齢に影響されるもの。医療の進歩と環境の改善で、先進国の寿命は伸び続けています。
しかし、長生きするにつれ、人生の長さよりも「生活の質」のほうが勝るものであることがハッキリしてきます。肉体的な健康が衰えるにつれ、筋肉が弱まり、記憶もおぼつかなくなり、視力や聴力も衰えます。
この原因は何でしょう? 変えることはできるでしょうか?
加齢に伴う体内の変化を説明する理論はたくさんあります。新旧織り交ぜて、それらの理論をご紹介しましょう。
寿命の有限性
古代の哲学者は、生物は生命維持に必須の物質を持っており、その物質がなくなると死に至ると考えました。その物質が消費されていくにつれ、身体は老化し衰弱していくという理論です。
つまり人間は、あらかじめ決まった量の物質とともに生まれてきて、これにより何回呼吸できるか、何回心臓が脈打つかが決まり、使い果たすと死んでしまうというのです。
「試練に打ち勝つ!」という理論ではまったくありません。
神経内分泌の減少
「神経内分泌」は脳と神経、ホルモンを生成する内分泌系を結ぶ複雑なコネクションです。加齢とともに神経内分泌の機能は衰えてきて、女性で言うと閉経の原因となるエストロゲンの減少など、ホルモン量の減少につながっていきます。
科学者は、ホルモン生成の減少は加齢によるものだと考えました。しかし、彼らが発見したのは、ホルモンの減少は実際には長寿につながっているという証拠でした!
この理論は現在もなお検証され続けていますが、老化の過程で、どのホルモンが減っていくかによって長生きできるかどうかに影響することは明らかになっています。例えば、近年の研究では、ヒト成長ホルモンを遺伝的に活用できない人は、ガンや2型糖尿病に対する何らかの保護力を持っていることが明らかになりました。
これは、この遺伝子異常が加齢に関連する衰退に対して、何らかの防御機能をもたらしていることを示しています。
架橋結合と糖化
DNAの発見以降、科学者たちは老化の過程で、体内のたんぱく質とDNA、その他の分子が通常の活動を阻害するように結合していることを突き止めました。例えば、たんぱく質がダメージを受けるとブドウ糖の分子がたんぱく質と結合(糖化)し始め、酵素によるたんぱく質分解を阻害するようになります。これらのダメージを受けたたんぱく質は体内に留まり、シワや白内障発症、動脈硬化、肝機能の低下など、さまざまな問題を引き起こすようになります。
架橋結合と糖化は問題を起こすことはわかっていますが、それらは老化の謎の一部でしかないという見解で科学者は一致しています。
テロメア短縮
もう一つの老化の理論は、細胞の分裂能力に関するものです。私たちの細胞は自ら再生して成長し、組織を再生産します。しかし、大半の細胞は40~60回と、限られた回数しか分裂再生できません。
その理由は何でしょうか?科学者たちは、細胞の防御機能を形成する小さな構造体「テロメア」とリンクしてこの問題を考えました(靴ひもの末端にあるプラスチック製のキャップの役目は、靴ひもがほつれるのを防ぐことにあります。テロメアはそのようなものだと思ってください)。
細胞が分裂するたびに、細胞は少しずつテロメアを失っていきます。そしてテロメアがなくなると細胞はそれ以上分裂できなくなります。
また、テロメアはフリーラジカルや毒素、酸化ストレスによってダメージを受けます。科学者は、テロメア短縮とダメージが、老化の謎を埋めるピースのひとつだと信じています。
ゲノム維持
人のDNAは毎日ダメージを受けています。活性酸素や毒素、変異(DNA複製の際に、身体が起こすエラー)は常にダメージを与えています。その結果、理論によれば、DNAが受けたダメージによって老化が始まり、死に至るというのです。ミトコンドリアは、身体が引き起こすDNA損傷における主要因の一つです。なぜならばミトコンドリアはエネルギー産生をしますが、その際に副産物として活性酸素を生成するからです。
ミトコンドリアDNAが活性酸素によってダメージを溜めると、機能が衰え、さらに多くの活性酸素が生成されます。
この理論によれば、ミトコンドリアを健康的に保つことが、加齢のプロセスにおいて健康をサポートする1つの方法になります。
酸化ダメージ
活性酸素は通常の細胞代謝における有毒な副産物です。抗酸化物質で取り除かれないと身体の中を動き回り、DNAやたんぱく質、ミトコンドリア、テロメアを傷つけます。
この酸化ダメージはどのような結果をもたらすでしょう? この答えも老化です。
これまで挙げた老化の理論のほとんどが、これら重要な構造体のダメージに関わるものです。活性酸素は特にミトコンドリアに深刻なダメージを与え、悪循環へと引き込みます。
さらに活性酸素は、ミトコンドリアの機能を損傷するだけでなく、さらに活性酸素を生成してしまいます。
そしてミトコンドリアはさらにダメージを受けてしまい、身体が求めるエネルギーを作り出せなくなり、身体の最適な働きを阻害するようになります。
老化の過程に関する知識と、それに伴うメカニズムが知られるにつれ、人々が長く健康を維持して生活の質を保てるように、科学者は“エイジングに関わる遺伝子コードのバイオハッキング”を行う新たな方法を見つけ出しています。
エイジングに関わる遺伝子コードのバイオハッキングとは何でしょうか? それは以下のことです。
- 健康の阻害につながる自然劣化のプロセスに打ち勝つこと。
- 最適な働きをする身体の機能を妨げる、すべてのものから身体を守ること。
最終ゴールは、人間が健康で過ごせる期間「健康寿命」を延ばすことです。多くの方法が研究されていますが、その中のひとつが体内のバランスを確立することにフォーカスを当てています。
その理由は何でしょうか?
身体というのは、「摂取するもの」と「排泄するもの」に大きく関わるバランスを必要とする複雑なシステムだからです。たとえば、身体に入ってくるものが身体から出すものへ関与し、日々私たちがどう感じ、どう行動するかにも影響するのです。このバランスを崩してしまうことが、加齢により起こる変化の根源にあり、日々の生活にたびたび支障をきたすようになります。
そのため、人生を通して最適な健康とパフォーマンスを保つには、身体に摂り入れるものを見極め、そうして体力・活力・精神状態など「身体が持つ、内側からの良いエネルギー」を最大化することです。
今日の世界では簡単にできることではありませんが。
次回、「エイジングコードのバイオハッキング:今の自分は過去の自分が選択してきた結果」に続きます。